2022年10月3週号
湯の花利用のカラスよけ考案 - 大曲農業高校果樹部
大仙市の大曲農業高校果樹部(山野大樹部長=3年生、部員18人)では、カラスによる果実の食害を防ごうと、温泉の硫黄臭を生かしたキットを研究している。実験で効果を発揮し、さらにコストや労働力などの課題にも配慮。全国でエコ活動をする高校生が対象の「第10回イオンエコワングランプリ」で、内閣総理大臣賞を受賞した。
キットは湯の花を混ぜて葉の形に整えた本体とポリエチレンフィルムのカバー、枝につるすひもからなる。葉にフィルムをかぶせ、ひもで枝に結び付けて使う。
開発のきっかけは、以前から実習園地でカラスの食害が相次いでいたこと。防鳥ネットを設置したが、高所での作業は危険な上、時間と労力がかかり、資材費もかさむことが課題となっていた。
そこで注目したのが、温泉特有の硫黄臭。「強い臭いがカラスを遠ざけるのでは」と仮定した。3年生の部員・藤川佑志さんは「最初は海外の硫黄石を取り寄せたが、高価で現実的ではなかった。仙北市にある玉川温泉の『湯の花』を材料に使うことで、費用を抑え、安定的な入手が可能と考えた」と話す。
湯の花を使用した実験で効果を実感した果樹部員は、つり下げ式の車の芳香剤に似せようと、さらに改良を重ねた。「牛乳パックと湯の花をミキサーで攪拌して、紙すきのような方法で葉っぱの形に仕上げた」と説明する。
キットは簡単にぶら下げることができ、果樹農家の負担軽減にもつながる。リンゴの果実の近くにつるした結果、50㌢ほどの距離までカラスを寄せ付けないことが分かり、ほぼ全てのリンゴを食害から守ることができた。湯の花の量を10㌘、20㌘、30㌘と分けても同じ効果が得られたことから、少量でもカラスよけとして十分使えるという。
また、ハクビシンによる食害が多いブドウ園地でも実験したところ、効果を確認。「ハクビシンは木に登って果実を食べる習性があるが、キットを幹につるすことで、登れなくなるのでは」と仮定する。
これらの研究結果が評価され、内閣総理大臣賞を受賞。数々のメディアでも紹介され、県外の果樹農家からの問い合わせもあるという。果樹部では、今後もキットの研究と改良を重ね、作り方について問い合わせがあった場合は教えていきたいという。3年生の部員・片野芹菜さんは「湯の花キットでカラスとのすみ分けが進み、農家の労働環境が少しでも改善されたらうれしい。後輩たちも研究を重ねてくれることを期待している」と話す。
さらに果樹部では、カラスが紫外線を感じて行動することにヒントを得て、UVカット効果があるビニールを用いた実験にも取り組んでいる。藤川さんは「カラスは紫外線がカットされた部分は真っ黒に見えるという情報から、廃材になった園芸施設のビニールが有効だと考えた」と話す。ビニールを縦40㌢、横20㌢程度に切り取り、真ん中に小さい穴を開け、摘果終了後にリンゴに被覆。この実験でも効果を実感している。
果樹部ではカラスよけ以外の研究も進め、果樹栽培に取り組みやすい労働環境づくりに努める方針だ。
次号をお楽しみに!